不育症と頸管腟細菌叢(J Reprod Immunol. 2023)
【はじめに】
不育症患者で今まで原因不明とされてきた割合のなかに、女性生殖器細菌叢の乱れが原因となっている群が一定数いると考えられ始めています。Yutoku Shiらは、子宮内膜細菌叢におけるウレアプラズマ種の相対優位率が、その後の正常染色体核型の流産の独立した危険因子であるとしています。違う国内グループからの、不育症患者における頸管腟細菌叢についての研究をご紹介します。
【ポイント】
頸管内の特定細菌(CutibacteriumとAnaerobacillus)の存在が、その後の異数性以外の流産予測因子となる可能性が示唆されました。
【引用論文】
Ryosuke Mori, et al. J Reprod Immunol. 2023 Jun:157:103944. doi: 10.1016/j.jri.2023.103944.
【論文内容】
原因不明不育症(2回以上の流産)との頸管腟サンプリング(内膜サンプリングより非侵襲的と判断)での細菌叢について後方視的ケースコントロール研究と前向きコホート観察研究を組み合わせて関連を調査しました。
原因不明不育症女性88名と流産歴のない17名の健康な女性の頸管腟細菌叢をイルミナMiSeqシステムでV3-V4可変領域を増幅することで細菌の16S rRNA遺伝子を解析しています。また、その後の異数性のない核型での流産における母体定着のリスク因子を前向きに評価しました。
結果:
日本人集団の頸管腟細菌叢は、Lactobacillus iners、Gardnerella vaginalis、Atopobium vaginae、Bifidobacterium breveが優勢でした(不育症群でもコントロール群でも差はありませんでした)。頸管内のDelftiaとunknown bacteriaの割合は反復流産患者の方が対照群よりも高いことがわかりました。絨毛羊膜炎既往歴を持つ患者はStreptococcus、Microbacterium、Delftia、Anaerobacillus、Chloroplastは対照群と比較して高値でした。さらに、CutibacteriumとAnaerobacillus量は、出産した患者と比較して、その後流産した患者で高いことが示されました。CutibacteriumとAnaerobacillusの両方の割合が高い患者の流産率(66.7%、2/3)は、これらの細菌がいない患者(9.2%、6/65、aOR 16.90、95%CI 1.27-225.47、p = 0.032)よりも高いことがわかりました。
【私見】
女性生殖器細菌叢の論文を網羅的に読んでいて思うことですが、①不育症患者と反復着床不全患者の違い、②解析手法の違い(プライマーの違いから影響しているかと思っています)、③ラクトバチルス量、それ以外の菌種か割合か絶対量か、④サンプリング方法、⑤フィルター方法などにより結果が変わってきます。臨床現場によって何が大切か咀嚼しながら検査・治療提供することが大事だと考えています。
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文責:川井清考(院長)
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