予期しない排卵(HRT周期)でも管理すれば胚移植成績は変わらない(Fertil Steril. 2023)

凍結融解胚移植をホルモン補充周期(HRT)で行った時に、予期せぬ卵胞発育・排卵は一定頻度で起こり得ます。高齢女性や卵巣予備能が低下している女性では、胞状卵胞が減少し、インヒビンのFSH抑制効果が弱まることで前周期の黄体期から早期卵胞発育が起こるためだと考えられています。
ホルモン補充周期の初期エストロゲン用量が高ければ、予期せぬ卵胞発育を防ぐことができるという研究報告(Simon A, et al. Fertil Steril 1999)もありますが、育ってきた際に移植をキャンセルするか続けるかは悩ましいポイントでもあります。
予期しない排卵(HRT周期)でも管理すれば胚移植成績は変わらないという報告をご紹介します。

≪ポイント≫

ホルモン補充周期における予期しない卵胞発育と排卵した場合の凍結融解胚移植成績は、通常のホルモン補充周期と比べて成績差は認めず妊娠高血圧症候群リスク低下が認めたことがわかりました。

≪論文紹介≫

Rusha Yin, et al. Fertil Steril. 2023 Jun;119(6):985-993. doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.02.011.

ホルモン補充周期における予期しない卵胞発育と排卵が妊娠転帰に及ぼす影響を検討した単一医療施設で行われたレトロスペクティブコホート研究です。
2014年1月から2020年12月にホルモン補充周期での単一凍結融解胚盤胞移植を実施した1,427名を対象としました。ホルモン補充周期における予期しない卵胞発育と排卵が妊娠転帰に及ぼす影響を、生児獲得率、生化学的妊娠率、臨床妊娠率、妊娠継続率で比較検討しました。
結果:
ホルモン補充周期における予期しない卵胞発育と排卵した女性(排卵群)161名と、ホルモン補充周期で卵胞発育を認めなかった女性(対照群)1,266名がリクルートされました。排卵群の女性は年齢が高く、血清FSH値が高く、血清AMH値が低い傾向がありました。傾向スコアマッチング後、2群間の患者背景は同等であり、生児獲得率(排卵群39.0% vs. 対照群39.0%)、生化学妊娠率(排卵群60.3% vs. 対照群58.2%)、臨床妊娠率(排卵群53.4% vs. 対照群50.7%)、妊娠継続率(排卵群42.5% vs. 対照群40.4%)に有意差は認められませんでした。さらに、排卵群では妊娠高血圧症候群(HDP)のリスクが低くなりました(1.6%対15.3%)。単胎の生児を出産した女性のサブグループ解析でも、ホルモン補充周期における予期せぬ卵胞発育および排卵は、HDPのリスク低下(aOR、0.070;95%CI、0.007-0.712)およびLGA児のリスク上昇(aOR、4.046;95%CI、1.319-12.414)と関連していました。

≪私見≫

今回のプロトコールはE2 6-8mg/dayをday3から開始し、day8-12に10mmを超える発育卵胞があれば注意深く観察し、14mmを超えると尿中LHキットを1-2日おきにチェックしhCGトリガーでの排卵誘発もしくは自然排卵した日を排卵日と想定し同日から外因性プロゲステロン投与を行、5日後に胚移植を実施しています。今回は排卵日のホルモン値を測定していないので、ここは個人的には知りたかったポイントです。

予期しない排卵(HRT周期)での胚移植成績についてポジティブな報告(Su Y, et al. Hum Reprod 2021;36:1542–51.)、ネガティブな報告(Yang X, et al. Int J Clin Exp Pathol 2013; 6:718–23.)ともにありますが、現在のところはポジティブな報告の方が多い印象をうけています。

文責:川井清考(院長)

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